ギャンブルと後悔と眼窩前頭回
ギャンブルには後悔がつきもの。「あのとき○○したら」「あのとき○○していなかったら」という考え、反実仮想をリアルに感じやすい場面です。
前頭眼窩回(前頭葉の底面にあって、眼のくぼみの上にある脳部位)に損傷があると「ギャンブル課題」において最終的な利得が得られにくい、ということは以前より知られています。これまでの説明では、情動関連の情報を認知的な処理に活かせないからだ、とされてきました。もう少し限定的には、個々の選択に伴う生理的・身体的な変化が消失し、この情報を使えない、というボトムアップ的なメカニズムが考えられてきました。
Camilleらは、前頭眼窩回損傷患者さんと、健常な被験者との比較を行い、このメカニズムについて考察しました。
1) 個々の選択のフィードバックによって、自分が選択した方が「正しい」ならばうれしく、「正しくない」選択であれば残念に思う、という関係は眼窩前頭回損傷例でも感じることはできる、
2) ところが、最終結果が「悪い」(損失が大きい)と、健常被験者は大きく自己の情動的評価が下がるが、前頭眼窩回損傷例では、全然下がらない。つまり、「後悔」しない。
3) SCRという生理指標でも、「後悔しない」ことを示す結果が得られた。
つまり、個々の選択時に生じる「残念」という気持ちは前頭眼窩回に損傷があってもある程度生じるが(つまりボトムアップ的な処理はある程度行われている=従来の仮説に異議を唱え)、事後的な、結果が悪かったときの「後悔」は生じないということ(つまりトップダウン的な、複数回の選択の全体的な評価に問題が起こるということ)が明らかとなった。図式的には
身体状態→情動的評価→認知(選択)よりも、
個々の認知(選択)→情動的評価
という情報処理に焦点を当てた。
知人からこの論文についてメールがあり,「後悔しないから負けるのか、後悔してても負けるのか」という疑問のメールが来ていましたが,どちらかというと,「後悔しないから負ける」ようです。
Science 304: 1167-1170, 21 May 2004.
Camille N et al.
The involvement of the orbitofrontal cortex in the experience of regret.
Journal's abstract(Sign inしないと見ることができません)
Neuropsychological, orbitofrontal
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Commentaires
どうも、知人です(笑)。
もう「生徒」じゃないのがちょっぴり寂しいですね…
学生じゃなくなったので、論文もフリーじゃないと読めない…
と思っていたら、職場も研究所なので電子図書館がありました♪
この論文もDLしちゃいました。
まだ読んでないけど…
後悔しないから負けるのか。ちょっと意外です。
今までてっきり逆だと思っていました。
こういう発想の転換が重要なんですねぇ。
眼窩前頭回はかなり私の心にグッとくる場所です。
Rédigé par: shibu | 24 mai 2004 12:16
おお,知人(笑)さん,コメント書いてくれてありがとう。是非ご自分で読んでみてください。わかりやすさ(★★☆☆☆-やや難)です。ギャンブル中の後悔(というか,ちょっと立ち止まって今日のカセギとかあとどれくらいまでなら大丈夫とか,考え直すようなこと)があまりないっていうことらしいよ。
もうひとつの疑問について,pathological gamblingの人の脳活動がどう違うか,については,fMRIもPETも研究がほとんどないようです。ひとつだけ読んだのはfMRIスタディで,病的ギャンブラーは前頭葉や皮質下の脳活動が減少していて(特に前部帯状回腹側部),ギャンブルしたいという気持ちはコカイン依存者のコカイン渇望と同じような状態だそうです。
Rédigé par: Mochi | 24 mai 2004 12:52