神経心理学の教科書
来週の集中講義の準備をしていてつくづく思っていること。
「心理学を学ぶ人たち用の,神経心理学のちゃんとした教科書は,ない」ということ。
別に和書に限らず,洋書でも状況は同じ。
神経心理学は私の第一の専門とするところなのですが,
patient-based(dependent)な研究をするので,網羅的に教えようとすると,個々の教える人の「強いところ,弱いところ」がでてきてしまう。それを補わないといけない。
たとえば僕は,それなりに「行為障害(失行や前頭葉性の)」や,感情や社会的認知や遂行機能(実行機能)について知っていることは多いけれども,言語関連,とくに失語は苦手。エピソード記憶の障害もちゃんと考えたり,症例検討したこともない。現象としては興味深い半側空間無視も,あのマニアックな(他の研究者たちの)研究にはついていけない。学会発表などで,失音楽などの演題には足も向かない。左右半球間の機能差に関する「強い」主張にはうんざりすることもある。
そんなわけで,先達の労作に目が向くわけですが,
どうしても,
一般向けの甘っちょろい,おいしいところだけつまみ食いの一般書風か,
医療関係者向けの,症状羅列的な教科書風か,
特定のトピックの総説(レビュー)の寄せ集めの,難しすぎる専門書風か,
三極化している。
誰か,体系的で,方法論や考え方もきちんと教えてくれる,
「心理学」的トピックに忠実な(心理学を学ぶ学生さんに有益な),
そんな教科書を書いてくれないかなぁ...
自分で書けばよいのだけれど...構想はあってもなかなか進まないし...
そもそも自分がそんな教育を受けていない。
理想(というか妄想)像。
講義の準備をしているので,おのずとそういう書籍をいろいろ見ていますが,
日本語で読める現時点でもっとも適切な(ちゃんとしていてわかりやすい)もの,
つまり上記のような目的に比較的沿っているものとして,
『高次脳機能障害学』石合純夫,医歯薬出版(2003),が最適でしょうか。
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Commentaires
おりしも同僚から、「この本いいよ」と『高次脳機能障害学』を見せられたところだったので、
びっくりして書き込みしてしまいます。何たる偶然。
この本、たしかにレベルとかボリューム的によいですね。
古典と新しい知見のバランスも結構よいかと思われます。一家に一冊ですね。
Rédigé par: kob@kyoto | 30 juil. 2004 15:28
偶然を操る男ですから。値段もね,比較的良心的だし。
僕が学び始めた頃には「黒本」(って呼んでたけど,某教祖様の)
しかほとんどなかったから,その頃に比べればレパートリーが増えて,
よいことです。
それで,来週は東京3泊です(何年ぶりか)。
改行はできないけど スペース は残るらしい,この枠。
Rédigé par: mochi | 30 juil. 2004 15:59