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27 sept. 2004

総合科目心を考える2-4

記憶について。
短期記憶と長期記憶,
宣言的記憶,つまり出来事の記憶であるエピソード記憶(と,ことがらの記憶である意味記憶),
非宣言的記憶(手続き記憶など)。

今日はエピソード記憶の障害まで。
最後の15分間,質問紙調査にご協力願いました。

いつもこの内容のときには「短期記憶のテスト」をして,系列位置効果★の説明をするのですが,
(★:覚えるべき複数の項目からなる系列のうち,始めの方で提示した項目と,
 最後のあたりで提示した項目の再生率がよい;グラフで表すとU字型になる)

これって,学期の授業の出席率に近いのではないかと...(つまり学期の初め頃と終わり頃の出席率は上昇する)。それを底上げするのが,大学教員のお役目のひとつですね。

健忘という現象は知名度が高いですが,そのあたりを説明しました。

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出席票は184枚提出され,コメントの記されたものは22枚でした。
いつものように,いくつかピックアップして答えましょう。

> なぜ昔の記憶の方が残りやすいのだろう?
 
 時間的勾配のことですね。
 ・新しい記憶はまだ完全に固定されていないから
 ・昔の記憶の方が,新しい記憶に比べてなんども「思い出す」機会があるだろうから,強化されている
 などが考えられます。


> 年をとることによる記憶障害はどのようにして起こるのですか?

# 神経細胞は正常の老化でも「減少」しますから,そのせいかな。
 でも「ネットワークで記憶」しているので,ある一本の神経細胞が脱落しても,あるひとつのことがらを忘れる,
 というしくみではありません。神経細胞減少のマスな蓄積が記憶の問題を引き起こすといえます。


> ピアノをやると聴覚の,絵をやれば視覚の記憶があがるなんてことは無いのでしょうか

# ロンドンのタクシードライバーの脳画像を撮ると,記憶に関連する海馬が大きかった,というような
 データは報告されています。でも,その「海馬が大きい」ことが,
 他の記憶テストに良い影響を及ぼすかどうかは検討されていません。
 ピアノの話しですが,指を動かす運動野の領域が拡大したとかいう報告ならあります。

 でもふつうの生活で考えてみれば,音楽が好きな人は,
 (たとえば「クラシック」など)好きなカテゴリーの音楽の記憶は,他のカテゴリーよりすぐれている,
 といったことはありえるでしょうね。
 そのことが,この場合で言うと,聴覚的記憶全体を向上させる,かどうかは,
 疑わしい(そういう研究があるかどうかを,私が知らないので答えようがないのですが,直感的に)
 

> 人の顔と名前を一致させて覚えるのが苦手。
  何か改善する方法は?あるいはメカニズムだけでも...

# どこかで読んだ本によれば,常にスムーズに顔と名前が一致する,つまり記憶できるのは
 150人ほどとか(...すでに,この授業の出席者の顔と名前は一致させられません)。
 個人に関する記憶は,他のモノなどの記憶と違って,specificな,つまり「それしか正解がない」
 タイプの記憶なので,正しく覚えることはもともと難易度が高い課題です。
 
 これまで見てきたように,顔の視覚像と,名前という音声または文字は,脳の別々の部位で処理されます。
 その上で,これらを有機的に「つなぐ」ことをしなければなりません。
 そして,そのつながりを脳のどこかで記憶しないといけません(側頭葉の先端が重要であるという研究が
 あります)。
 特にこういう場合,「あいつは見たことがある」「名前なんだっけな」となることが多いでしょうから,
 ありきたりな答えですが,「顔や身体の特徴」や「相手の様々なパーソナルな情報」を,
 名前を聞いた・見たときに,同時に覚えようとすることが重要かと思います。
 つまり,手がかりを増やして,その人に関する情報のネットワークを作っておくこと,覚える時に。


> ドラマなどの「記憶喪失」では,失われるのはエピソードだけというのが」定番ですね。
 障害されやすい記憶はあるのですか?ドラマティックだから?

# 実際のところ,健忘症は,まれではない障害です。
 エピソードに障害があっても,ことばそのものには問題がないでしょう?コミュニケーションも取れる
 でしょう?ドラマに取り上げられやすいのは,そういう「ドラマ」に欠かせない部分が正常に保たれて
 いるからだと思われます。
 意味記憶のみが選択的に障害されることもありますが(そういう痴呆もあります),その場合には,
 言葉の意味さえわからなくなってしまうので,しゃべることも,それからコミュニケーションも非常に
 限定的になってしまいますから,少なくともドラマには向きません。限定的ではあっても,エピソード
 記憶は保たれますから,たとえば「昨日どこへ誰と行ったの?」といったことがらには,使えることば
 の範囲で正しく答えることができます。


> この授業を受けてきて,心を考えるというのは,授業中に考えるのではなく,知識を自分のものにして,
 ボーッとしている時間にでも自分で心を考えるのだと気づきました。

# それはけっこう,私の意図するこの科目「心を考える」の目標なので,うれしいコメント
 (まあでも,授業中にも,考えてくれてもいいけどね)

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