『脳神経心理学』
いまさらながらで恐縮だが,『脳神経心理学』を購入した。
心理学徒をメインな対象に据えている日本語で書かれた神経心理学の教科書は,
現在ではこの本しかないのだろう。
他の心理学徒向け書籍は簡単すぎるか,一部分しかないか(網羅性が弱く),偏りすぎていて,
「教科書」とは呼べない。
もちろん,次年度から神経心理学の講義をしなくてはならないので,ということもあるが,
(そういうときはふつう,授業で用いる教科書・参考書の候補として,
あるいは自分の講義を計画する意味で,
複数の教科書的な本にあたることは,ミニマムに,当然行われる<べき>)
書籍部で,15%割引特別フェア実施中だったこともあり。
まえがきだけ,読んでみた。
心理学教育の中での神経心理学の位置づけについては,
編者が ●まえがき で述べておられることに同感。
...わが国では,精神神経科や神経内科など医学領域の研究者や臨床医により
発展してきたことから,神経心理学が心理学教育のなかでかなり異端視されていた
ことも確かである。...(中略)...しかし,わが国では,脳が心の座であることを
認めながらも,心理学の基礎知識として時間をかけて脳の構造や機能について
教育がなされないことも,神経心理学がわが国の心理学教育に馴染まなかった
一因といえるだろう。
○
...神経心理学も,基礎心理学のみならず臨床心理学,教育心理学,医療心理学といった
応用領域の専門基礎を志向する人たちに,いまや必修の学であるといっても過言でない。...
※ちなみにネットでシラバスを検索をすると,
心理系の学部学科で神経心理学を「必修」としている大学が,
ただひとつ存在するようだ。北海道医療大学心理科学部。きわめて先進的。
※太字はワタクシによる;異端が必修に。時代は変化するのです。
*
タイトルを「神経心理学」とせず,また「脳心理学」とせず,
「脳神経心理学」とした点は,そうは書かれていないけれど,
あれこれを考える。
内容的に,神経心理学は基本的にはミクロな神経細胞レベルの話というよりは,
神経細胞のネットワークであるところの脳部位,もしくは脳部位間のネットワークの話だから,
記述のカテゴリーとしてはもう少しマクロなレベルの「脳」の方が適切であり,
「神経」では誤解が生じやすいのは確か。
神経生理学や神経薬理学とはそういう点で,対象とするレベルは異なる。
しかし,だからといって,「脳心理学」では。
「脳科学者」という人々がたいていうさんくさいのと同様に☆,うさんくさくなってしまうことと,
英語圏ではやはり neuropsychology であって brain psychology ではなく,
brain scientist よりも neuroscientist がしっくりくるから,
「神経」をすっかり取り除くのにも抵抗があるのだろう。
☆:この点は,わかりやすい識別のポイント。
アカデミックな世界の研究者であれば,
ふつう専門は「神経科学」(「○○神経科学」とサブカテゴリーを付すこともある)とし,
「神経科学者」と言われることを好む/自称するだろう。
※もちろん組織単位で「脳科学」と称するところはあるけれど,
個人レベルでは,の話。
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