« 目だけでわかる | Accueil | 「照れくさい」 »

19 mars 2008

感情(障害)・社会性(障害)のレクチャー

まず,神経心理学・高次脳機能障害のテキストでこれらを扱っているものは
半分ほどであることを確認。

神経心理学で「感情」を扱うときの図式としては,
(1)感情認知障害,(2)感情表出障害,(3)感情体験・経験そのものの障害(?)にまず分ける。
量的に研究が多いのは(1)であって,(2)や(3)は少ない。

(1)に関しては,表情や音声による感情プロソディとか身体表現とかで検討する
(検討しやすい;刺激設定が容易であり,反応の測定もいくつかのやり方が考えられる)。
やはりというかなんというか,
右半球損傷 vs. 左半球損傷の検討を行う時期があって,概して「右」で低下。
(左半球-失語症の対比としての,右半球-"aprosodia"by Ross とか。)
その後,AdolphsらのNature論文(1994)があって,
「恐怖認知-扁桃体損傷」のような新たなスキーマが示されたことにより,
ようやく感情全体ではなく感情カテゴリーごとの検討とか,
半球全体ではなくってもっと局所的な影響の検討とか,
疾患群ごとの比較とか,いわゆる「神経心理学的な」研究が増え,
またイメージングによる研究もあり,
爆発的に研究が増加する→"affective neuroscience"。

で,(2)表出の研究はどうかっていうと心許ない。
感情体験を伴わずに感情表出してしまう(ように解釈できる)「強制泣き」「強制笑い」,
感情体験があるけれども感情表出が減少する(とも解釈できる)「仮面様顔貌」など...
(もちろん,motor aprosodiaみたいのを除いて)あまり研究が多くない。
反応を評価する方法が確立されていないことが大きい。
そして,イメージングでは検討しにくい(頭が動いちゃうとね)

(3)感情体験・経験そのものに関しては,
脳卒中後うつなどの例外を除き,あまりしっかりとした研究がないかもしれない。
これは,一次性なのか二次性なのかという問題も含めて難しい。
「人格変化・行動異常」などと呼ばれる問題も同様なところがある。

(2)と(3)は十分に分離可能なのか,ということも問題。

実生活上の問題に実践的に対処するうえで(2)(3)は重要だけれども,
研究として行うには,コンテンツ的にもメソッド的にも,あれこれの困難があって,
十分に教科書的に記述するには研究の蓄積が多くない,ということです。

 *

研究上の大きな流行としては,ここ数年はとくに「社会性」ということだと思われる
→"social neuroscience"。
(ルーツは,「心の理論」関係,自己/他者問題,意思決定あたりにあるのでしょうね)。
「相手あっての」さまざまな心的活動と,
脳部位/脳活動との対応関係に焦点が当てられている。

 *

他のかっちりcognitiveなテーマ(できない/できる)という話と異なり,
感情も社会性も,もともとの健常な状態における「個人差」が大きく,
感情とかパーソナリティとか対人関係ってむしろその個人差が大事なのであって,
誤差としてではなくエッセンシャルに扱わなければならないだろうところが,
けっこう悩ましかったり。
最近の論文で「相関」(rがいくらとか,散布図とか)がよく出てくる背景は
そういうところにある。
普遍的共通的平均的なものを扱う方ではない,
もう一方の「心理学」に近づきつつある。

で。

個人差的なところが出てくると,
神経倫理学的な問題も現実味を帯びてくる,ということになるわけですね。

 *

この先はどうなっていくのでしょうか。

 *

ということで,この私塾的レクチャーシリーズは今回で一区切り,となりました。

|

« 目だけでわかる | Accueil | 「照れくさい」 »

04. NOTES-as-LECTURER 【講】」カテゴリの記事

Commentaires

L'utilisation des commentaires est désactivée pour cette note.

TrackBack


Voici les sites qui parlent de: 感情(障害)・社会性(障害)のレクチャー:

« 目だけでわかる | Accueil | 「照れくさい」 »