080503[bx1]ハンドグリップでアパシーを測定
080503[bx1]-1 apathy; reward; efort; incentive motivation; AAD; PD
Disconnecting force from money:
effects of basal ganglia damage on incentive motivation
ハンドグリップをぎゅっと握ることでアパシーを測定する,という点と,
auto-activation deficit=AAD(フランス語圏で提唱されている,"Perte d'autoactivation psychique")
を対象にしている点がもの珍しい。
AADは,外的刺激によって駆動する行動は正常であるにもかかわらず,
自己駆動型の行動が減少するという症候のことで,アパシーの特異な型と考えられている。
このAAD群(両側大脳基底核淡蒼球病変)13例と,比較対照としてパーキンソン病(PD)群13例,
健常対照群26名に,ハンドグリップを用いた課題を課し,結果を比較した。
instructed taskでは,画面に3段階の強さ(40%/80%/120%)のうちのひとつが表示され,
その強さでハンドグリップを握るように調整することが教示された。
incentive taskでは,3段階の金額(1ユーロ/10ユーロ/50ユーロ)のうちのひとつが表示され,
「強く握れば握るほど」「最大でその表示された金額を得られる」ことが教示された。
その結果,
1) AAD群もPD群も,instructed課題において,3段階の握りの強さ調整が可能であった。
2) incentive課題において,PD群は(健常対照群にくらべると変化がフラットではあるが),
金額が上昇するほど「強く」握る(=ことによりお金を獲得しようとした)が,
AAD群ではそのような傾向がまったく見られず,金額の違いと握る強さに関係がみられなかった。
3) しかし,同課題において測定したskin conductanceは,金額の違いを反映していた;
健常対照群に比べると,AAD群もPD群も3段階の変化がフラットな傾向にあるが)
したがって,
1) AAD群もPD群も,外的刺激駆動型の握りは行われ,強さの調整も可能だった。
2) AAD群では「可能な最大金額」を得るために「強く握る」という自己駆動型の握りが行われない。
PD群では金額の大きさに応じて握りの強さが強まるが,その変化量は健常対照群に比べて弱い。
3) AAD群もPD群も金額の大きさに"affectiveに"反応してskin conductanceが上昇するが,
その変化量は健常対照群に比べて弱い。
つまり,PD群のアパシーはmotorにもaffectiveにも等しく減弱傾向があり,
AAD群のアパシーの特徴としては,さらにとりわけmotorにかかる「消失」があり,
affectiveな側面とmotorの側面の乖離傾向が強い,ということになる。
逆のパターン,
すなわちaffectiveな側面は消失し,motorな側面ではアパシーがみられないという
パターンというのも想定できないことはなく,
おそらく扁桃体損傷患者などでみられるだろうと「予想」している。
*
「アパシー」(とか「意欲」とか「モチベーション」とか「やる気」とか)って
議論が錯綜しているし,方法論的にもどのように研究すればいいのか,難しいですね;
神経学的・神経心理学的にも,精神医学・臨床心理学的にも。
でも,このハンドグリップをぎゅっと握るというきわめてシンプルな実験的課題で
アパシーを測定(してあれこれ議論をすっきりと整理)できたら
それはそれは面白いなと思います。
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Commentaires
一昨年まで,COEポスドクとして学系棟の実験系研究室に勤務していたものです。現在の所属機関に,標記論文の最終著者がTalkに訪れることとなりました。その前にStaffで,著者の主要業績について勉強会を開くこととなり,情報収集のためWebを検索していたところ,最初にこのBlogにたどり着きました。臨床系の知識が乏しいので,日本語の要約を拝見できてとても楽になりました。ありがとうございました。
Rédigé par: | 03 juin 2009 03:36
それはそれは。なにかのお役に立ててよかったです。
UKにおられるのですね。
Rédigé par: m0ch1 | 03 juin 2009 07:22