神経心理学演習10-12
政所さん担当(先週に引き続き)
片麻痺に対する病態失認の治療法。
あれこれ議論。
Self-observation reinstates motor awareness in anosognosia for hemiplegia
(片麻痺に対する病態失認を自己観察によって修復する)
(病態失認に関する質問をしている診察/検査場面を)ビデオに撮影し,
それを後に再生して自己視聴することで,
自己の片麻痺に対する認知が(ただちに)改善した=気づき・病識が得られた(!!),
というケーススタディ。
発見的というか逸話的というか。
三人称的に(1)
オフラインでやることが(2)
もしかしたら病識を改善する効果があるのかもしれない,ということになっている。
(1)もちろん,一人称的には常に「見えているはず」だから他の手段として。
(2)鏡で見せながら診察/検査することも考えられるが(それを「オンライン」と称す),
そうではなく,ビデオで撮影して,後で見る
(動作遂行と観察が同期しない状況で)。
*
「なぜこの症例が対象者に「選ばれた」のか?」
「どうして一例の報告なんだろうか?」
「あらかじめ考えられた研究計画を実施しての結果なのか,たまたま見いだされた知見なのか」
などなど,
なかなか本質を突いた質問が出て,おおいにけっこう。
心理学の学習をしている学生さんたちですから,通常の思考スタイルとしては,
片麻痺病態失認「群」(複数患者グループ)を対象に検討すべきだと。
ごもっとも。
しかしながら,
(1)発見の先手争い
(2)こうして報告することで,結果的に他の研究者も試してみるだろうから,
支持する結果であれ支持しない結果であれ,
検証はむしろ,そのグループだけで検討するよりも
その後大規模になされるとも考えられる→効果があるなら,それは対象の患者さんたちにも
直接的なメリットがある
なぜこの症例だったのかは...あらかじめ,だったのかは...たしかにわからない。
*
もうひとつは,倫理面でのこと。
病態失認がある方なのだから,ご自分は「動く」と思っているはずであり,
それゆえ治療の必要性/さもなければ「研究に協力する」必要性はあまり感じないはずで,
どうやってビデオ撮影の許可を得たんだろうと。
*
さらにもうひとつは,
「病態」の正しい認知は患者さんにとってどうメリットがあるのか,ということ。
たしかに,早い段階で正確な病識を得,リハビリテーションに取り組むことは
予後のことを考えても重要である。
他方で,
(実際この症例でもそうであったが)病識を得ることで,
悲しみ・抑うつ気分・不安が上昇したりした。
つまり,「直面」させることにより心理的なよろしくないリアクション,
デメリット面も出現した。
さあ,そのような功罪のある実践を「研究」として行うとすると,
そういうことはどうなんだろう??
あれこれすっきりとは解決しがたい,深い問題が絡んでくる。
「心理士」としての出番は,
そういうところにもおおいにあるんじゃないかな。
ってお話ししました。
*
発表で,
ケーススタディ論文を読むのは今期初めてで,
かつ治療に関わるテーマだったので,
いつもとは少々異なるディスカッションができて,有意義でした。
「 01. BRAIN 【脳】」カテゴリの記事
- 神経心理学演習12-10(2012.05.22)
- 神経心理学演習12-9(2012.05.22)
- 神経心理学演習12-6(2012.05.08)
- 神経心理学演習12-5(2012.05.08)
- 神経心理学演習12-08(2012.05.15)
「 04. NOTES-as-LECTURER 【講】」カテゴリの記事
- 心理学II(パーソナリティ)12-0(2012.07.25)
- フレセミ12_10(2012.06.21)
- フレセミ12_09(2012.06.14)
- フレセミ12_08(2012.06.07)
- 12特論XII/特講III-7(2012.06.01)
「 03. ARTICLES 【篇】」カテゴリの記事
- 120724[mz1] Cogn. Ther. Res. 36-4(2012.07.24)
- 神経心理学演習12-10(2012.05.22)
- 神経心理学演習12-9(2012.05.22)
- 神経心理学演習12-6(2012.05.08)
- 神経心理学演習12-5(2012.05.08)
L'utilisation des commentaires est désactivée pour cette note.
Commentaires
「片麻痺の病態失認はどの程度の割合で出現するのか」という
ご質問もあって,返答に窮する。
自然に「回復する」(認識に至る)こともあるよね。
初回の検査が発症後第何病日かも人による。
Rédigé par: m0ch1 | 28 mai 2010 20:05
読んでてゾクゾクしました。
Rédigé par: 凸 | 28 mai 2010 21:33
ん。
凸さんがゾクゾクしそうな箇所の3つの可能性を考えたよ。
Rédigé par: m0ch1 | 29 mai 2010 06:05