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28 mai 2010

神経心理学演習10-12

政所さん担当(先週に引き続き)


片麻痺に対する病態失認の治療法。
あれこれ議論。

Self-observation reinstates motor awareness in anosognosia for hemiplegia

(片麻痺に対する病態失認を自己観察によって修復する)


(病態失認に関する質問をしている診察/検査場面を)ビデオに撮影し,
それを後に再生して自己視聴することで,
自己の片麻痺に対する認知が(ただちに)改善した=気づき・病識が得られた(!!),
というケーススタディ。
発見的というか逸話的というか。


三人称的に(1)
オフラインでやることが(2)
もしかしたら病識を改善する効果があるのかもしれない,ということになっている。

 (1)もちろん,一人称的には常に「見えているはず」だから他の手段として。
 (2)鏡で見せながら診察/検査することも考えられるが(それを「オンライン」と称す),
   そうではなく,ビデオで撮影して,後で見る
   (動作遂行と観察が同期しない状況で)。


 *


「なぜこの症例が対象者に「選ばれた」のか?」
「どうして一例の報告なんだろうか?」
「あらかじめ考えられた研究計画を実施しての結果なのか,たまたま見いだされた知見なのか」
などなど,
なかなか本質を突いた質問が出て,おおいにけっこう。

心理学の学習をしている学生さんたちですから,通常の思考スタイルとしては,
片麻痺病態失認「群」(複数患者グループ)を対象に検討すべきだと。
ごもっとも。

しかしながら,
(1)発見の先手争い
(2)こうして報告することで,結果的に他の研究者も試してみるだろうから,
 支持する結果であれ支持しない結果であれ,
 検証はむしろ,そのグループだけで検討するよりも
 その後大規模になされるとも考えられる→効果があるなら,それは対象の患者さんたちにも
 直接的なメリットがある

なぜこの症例だったのかは...あらかじめ,だったのかは...たしかにわからない。


 *


もうひとつは,倫理面でのこと。

病態失認がある方なのだから,ご自分は「動く」と思っているはずであり,
それゆえ治療の必要性/さもなければ「研究に協力する」必要性はあまり感じないはずで,
どうやってビデオ撮影の許可を得たんだろうと。


 *


さらにもうひとつは,
「病態」の正しい認知は患者さんにとってどうメリットがあるのか,ということ。

たしかに,早い段階で正確な病識を得,リハビリテーションに取り組むことは
予後のことを考えても重要である。

他方で,
(実際この症例でもそうであったが)病識を得ることで,
悲しみ・抑うつ気分・不安が上昇したりした。
つまり,「直面」させることにより心理的なよろしくないリアクション,
デメリット面も出現した。

さあ,そのような功罪のある実践を「研究」として行うとすると,
そういうことはどうなんだろう??


あれこれすっきりとは解決しがたい,深い問題が絡んでくる。

「心理士」としての出番は,
そういうところにもおおいにあるんじゃないかな。
ってお話ししました。


 *


発表で,
ケーススタディ論文を読むのは今期初めてで,
かつ治療に関わるテーマだったので,

いつもとは少々異なるディスカッションができて,有意義でした。

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Commentaires

「片麻痺の病態失認はどの程度の割合で出現するのか」という
ご質問もあって,返答に窮する。

自然に「回復する」(認識に至る)こともあるよね。
初回の検査が発症後第何病日かも人による。

Rédigé par: m0ch1 | 28 mai 2010 20:05

読んでてゾクゾクしました。

Rédigé par: 凸 | 28 mai 2010 21:33

ん。

凸さんがゾクゾクしそうな箇所の3つの可能性を考えたよ。

Rédigé par: m0ch1 | 29 mai 2010 06:05

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